公務員の退職金活用:まず知るべき退職後の生活費と必要資金
退職後の生活資金、まずは全体像を把握することが大切です
長年にわたり公務員としてお勤めになり、まもなく退職を迎えられる皆様にとって、退職金は今後の生活を支える大切な資金源となります。この貴重な退職金をどのように活用していくか考えるにあたっては、まず「退職後の生活に、一体いくらくらいの資金が必要になるのだろうか?」という全体像を把握することが、非常に重要な第一歩となります。
多くの方が、退職後の生活費や今後の資産について漠然とした不安を抱えているかもしれません。しかし、ご自身の状況に合わせて必要な資金を見積もり、「見える化」することで、漠然とした不安は具体的な計画へと変わり、安心して退職後の生活設計を進めることができるようになります。
この記事では、公務員の方が退職後に必要となる生活費の考え方と、ご自身の必要資金を把握するための基本的なステップについて解説します。
退職後の生活費、いくらくらいが一般的な目安?
退職後の生活費は、家族構成、住居、趣味、健康状態など、個々人のライフスタイルによって大きく異なります。そのため、「〇〇円あれば安心」と一概に言えるものではありません。しかし、一般的な目安として、総務省などが行っている家計調査などの統計データが参考になります。
例えば、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯の平均的な1カ月の支出は約26万円というデータがあります(2022年調査)。ただし、これはあくまで平均であり、食費、光熱費、住居費、医療費、娯楽費など、様々な支出項目が含まれています。
この平均額を基準に考える方もいらっしゃいますが、ご自身の現在の支出や、退職後に変化するであろう支出(通勤費がなくなる、趣味に使う時間が増えるなど)を具体的にリストアップし、見積もってみることがより現実的です。
また、「ゆとりある生活を送るためにはどのくらい必要か?」という視点も重要です。基本的な生活費に加えて、旅行、趣味、レジャー、冠婚葬祭、予備費といったプラスアルファの支出を考慮に入れると、必要な金額はさらに増えることが考えられます。
ご自身の必要資金を「見える化」するステップ
退職後の必要資金を具体的に把握するためには、以下のステップで考えてみましょう。
ステップ1:退職後の「年間」生活費を見積もる
まず、退職後の1年間で、ご自身の生活にいくら必要になりそうかを見積もります。現在の家計簿などを参考に、食費、住居費(持ち家なら固定資産税や修繕費、賃貸なら家賃)、光熱費、通信費、医療費、交通費、保険料、お小遣い、趣味・娯楽費など、主な支出項目をリストアップし、それぞれにいくらくらいかかるか考えてみましょう。
夫婦二人の場合、一人あたりの必要額を合計する方法や、世帯全体で考える方法があります。単身の場合も同様に、ご自身のライフスタイルに合わせて見積もります。
ステップ2:退職後の生活が続く「期間」を設定する
次に、退職後の生活が何年間くらい続くかを想定します。平均寿命やご自身の健康状態、家族構成などを考慮し、例えば「90歳まで」「95歳まで」といったように、一つの目安となる年齢を設定します。
ステップ3:生涯で必要となる生活費の「総額」を計算する
ステップ1で見積もった年間生活費と、ステップ2で設定した生活期間を掛け合わせて、退職後の生活費の総額を計算します。
(年間生活費の見積もり額) × (想定する生活期間) = (生涯の必要生活費 総額の見積もり)
この計算結果はあくまで目安ですが、今後の資金計画を立てる上での大きな指針となります。インフレによる物価上昇リスクや、予期せぬ大きな支出(病気や介護など)に備えるための予備費についても、いくらか上乗せして考えておくとより安心です。
現在の資産状況を把握する
退職後の必要資金の全体像が見えてきたら、次にご自身の現在の資産状況を正確に把握することが重要です。
- 退職金: 受け取る見込みの金額を確認します。公務員の退職金は、勤務年数や退職事由によって計算されます。
- 公的年金: 将来受け取れる年金の見込み額を確認します。ねんきん定期便や、ねんきんネットを活用すると、より詳細な受給見込み額を知ることができます。公務員の方は、これまでの共済年金期間も厚生年金として計算されます。
- iDeCoやNISA: これまで積み立ててきたiDeCoやNISAなどの金融資産の現在額を確認します。
- 預貯金: 銀行の普通預金や定期預金など、すぐに使えるお金や比較的安全性の高い資産額を確認します。
- その他の資産: 保険の解約返戻金、不動産、企業型確定拠出年金など、その他の資産についても把握します。
これらの資産を合計し、退職後の生活を支えるための「手元にある資金」の全体像を把握します。
必要資金と現在の資産を比較し、今後の計画を立てる
退職後の必要資金の見積もりと、現在の資産状況が把握できたら、両者を比較してみましょう。
- 必要資金 > 現在の資産 + 年金収入 の場合: 退職金だけでは不足する可能性があることを意味します。不足分を補うために、退職金の一部を計画的に運用して増やすこと、退職後の働き方を検討すること、支出を見直すことなど、様々な選択肢を考える必要があります。
- 必要資金 ≦ 現在の資産 + 年金収入 の場合: 現在の資産と年金収入で、想定する退職後の生活を送れる可能性が高いことを意味します。しかし、だからといって安心しきるのは早いかもしれません。インフレリスクや、資産をより効率的に活用する方法、次世代への資産承継など、さらに踏み込んだ検討をすることも可能です。
公務員ならではの考慮点
公務員の場合、退職金制度や年金制度にいくつかの特徴があります。
- 退職金: 多くの場合、一時金で受け取る方が多いかと思います。まとまった金額を一括で受け取ることによるメリット・デメリットや、税金について理解しておくことが大切です(これらは他の記事でも詳しく解説しています)。
- 公的年金: 平成27年10月から共済年金は厚生年金に一元化されました。ご自身の加入期間がどのように年金額に影響するか、ねんきんネットなどで確認しておきましょう。
- 退職後の働き方: 再任用制度を利用する、別の職場で働く、といった選択肢もあります。収入がある場合は、退職金からの取り崩し計画に影響しますので、その可能性も含めて検討すると良いでしょう。
まとめ:焦らず、一歩ずつ進めましょう
退職後の生活費や必要資金の計算は、慣れない作業に感じるかもしれません。しかし、これは今後の人生を安心して過ごすための、非常に価値のあるステップです。
まずは、ざっくりとした年間生活費の見積もりから始めてみましょう。完璧な数字を目指す必要はありません。大切なのは、「見える化」して、ご自身の状況を把握することです。
退職金は、これまでの皆様の勤労を支えてきた大切な財産です。この退職金を賢く活用するためにも、まずは退職後の生活にどのくらいの資金が必要なのかを知ることから始めてみませんか。焦らず、ご自身のペースで、一歩ずつ計画を進めていきましょう。
具体的な資産運用の方法(iDeCoやNISAなど)や、退職金の受け取り方、税金などについては、当サイトの他の記事もぜひ参考にしてください。ご自身の状況に合わせて、必要であれば専門家への相談も検討されると良いでしょう。